書評 プレイバック・ビブリオバトル(3)  『イラクサ』

  • 2019/3/15

『イラクサ』 アリス・マンロー著 小竹由美子訳 2006年 新潮社

アートや陶芸の作品を見るときは、いつも、対話している。誰かが、一緒のときは、その誰かと。ただ、そんなことは、めったにない。作品との対話、といえば聞こえはいいが、実際には、自問自答。読書ではこれができない。あくまで、僕は、という話だが。読書会とも違う。調べ読みとはまったく違う。以前は、していたような気もするけど。

きっかけは、ビブリオバトルだった。紹介したのは高田先生。ボタニカルな装丁が印象的な、クレスト・ブックスの一冊だ。仮フランス装。ほかではあまり見ない。

読書での、対話を、経験した。自然に生まれた対話だ。作者との対話、という名の自問自答だったり、本当の自問自答だったり。例えば、こんな感じだ。作品を、読み終えるたびに、どうでした、とマンロー。それに、僕が答える。すると、おや、泣いてらっしゃるのね。じゃ、次はこれね。それが終わると、おや、少し軽かったかしら、じゃ、こんなのは如何。さらに続く、その次は、これ、少し落ち着けるわよ。

「恋占い」、「浮橋」、「家に伝わる家具」、「なぐさめ」、「イラクサ」、「ポスト・アンド・ビーム」、「記憶に残っていること」、「クィーニー」、そして、「熊が山を越えてきた」の9作品。ビブリオバトルで紹介された「イラクサ」から始め、あとは掲載順に。途中で気づいた。掲載順に、読むべきだった。アンソロジーの掲載順が、対話の流れを作っているようだ。例えば、最後の「熊が山を越えてきた」。ほかの8作品の中に、色々な参照点が見つかる。対話を振り返りながら、アンソロジー全体に、複雑な余韻を残してくれた。

日頃、物語も、それなりには、読む。ただ、資料のようにして読むことが多い。社会的背景が気になる。いや、それが先行する。今回はそれがない。この本では、どの作品も、社会的背景が気にならなかった。読了後、そう思った。作品のせいだろうか。何だか、不思議な、読書体験だった。( A. T. )

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