時事雑感  見えない攻撃、あやしい動画

  • 2019/7/3

(1)見えない攻撃

 国際関係論の講義の前後あるいは講義中に学生から質問が出てくる。留学生が多い。最近の国際情勢に関する質問がほとんどだ。しばらく前までは、主な報道に目を通すだけで想定問答を用意することができた。ところが最近は難しい。疑わなければならないことが多くなりすぎているからだ。

米国はイランに対してサイバー攻撃を仕掛けたという。サイバー・スペースを経由してリアル・スペースにあるミサイル発射システムを破壊したということらしい。相次いだタンカーへの攻撃と米軍のドローン機を撃墜したことに対する報復措置と見られている。

このサイバー攻撃を報じたニューヨーク・タイムズの記事によると、攻撃が成功したか否かは、イランが実際にミサイル発射の手順を踏むまでは分からないのだという。通常の手順により発射することができなければサイバー攻撃は成功、発射できれば失敗だった、ということになる。今のところ、攻撃があったということも、その成果がどの程度であったかということも、リアル・スペースでは何も見えない。

昨年、米国が一方的な撤退を発表して以来、その行方が注目されているイランと関係6カ国との核合意でも、その端緒には、コンピュータ・ウィルスによる核濃縮プラントのシステム破壊があった。プラントのシステムが破壊されたことで、ウラン濃縮の中心的な装置である遠心分離機の動きが攪乱され、核兵器に必要な濃縮自体ができなくなったとされる。それが、イランを核合意に踏み切らせていた。この時は、サイバー・スペース経由ではなく、携帯用のメモリからプラントのコンピュータにウィルスが持ち込まれたことが知られている。リアル・スペースでの出来事だ。

サイバー攻撃が報じられたのと同じ時期、米国は、イランに対する新たな経済制裁を発動した。また、イランは低濃縮ウランの貯蔵量が合意された制限を超えたと発表した。こちらの方はいずれも公式に発表されている。ところが、サイバー攻撃についての公式見解は、米国政府もイラン政府も、いまのところ何も発表していないようだ。(A.T.)

 

(2)あやしい動画

 今度は、見える話である。ただ、その見えるものがあやしい。昨年3月あたりから、ディープフェイクによるポルノ動画が問題視されるようになっている。登場する人物の顔を別の人物の顔に置き換えた動画である。AIとして知られるディープラニングの技術を使い、本物と区別のつきにくい動画ができているという。自分の顔を使われた人にとっては深刻な問題である。

このディープフェイクを使った政治家や企業経営者の映像も公開されている。ポルノではない。念のため。幾つかを見た、確かに、声や動きも真似された政治家や企業経営者に似てはいる。ただ、もちろんそれがディープフェイクであることを予め知っているせいもあるのだろうが、まだ、どこかぎこちなさは隠せない。映像作品として見るならば、そのぎこちなさがかえって面白いところではあるのだけれど。報じられるところでは、本物と区別がつかない映像の出現は時間の問題だという。

このあやしい動画が、見えない攻撃と組み合わされると、話はいささか厄介になる。こんな具合だ。某国大統領が、敵国に見えない攻撃を仕掛けたとSNSに動画を投稿した。それを信じた敵国大統領は、某国に空爆を開始した。その映像はライブで世界に届けられた。ところが、どうやら、投稿されたのはあやしい動画で、別の何者かが作ったものであることがあとから分かった。フィクションにしてはいかにも筋が単純すぎる。ただ、むしろその単純さゆえに、突発的に起こり得ないとも言えない想定シナリオではある。

こうした想定シナリオが現実のものになりやすいのは、個人あるいはごく限られた少数の人間で意思決定がなされる権威主義的な政治体制の下で、であろう。状況が緊迫し、感情的な情報が行き交うようになると、突発的な出来事は起こりやすくなる。大阪であったG20前後の時期には、参加首脳の一部から権威主義を擁護するような発言があったことも報じられた。AIやITなどの技術の進歩が不安の原因となり心配されるのは、それを使う人間や人間集団への不信が大きくなっているときであろう。見えない攻撃にしても、あやしい動画にしても、技術的な話ではある。しかし、その技術を使うのは人間だ。そうした人間や人間集団への不信を解消することが、まず、求められる。(A.T.)

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