時事雑感  未来へ

  • 2019/8/8

前期試験の採点がようやく終わった。例年この時期には他にも色々な事が重なる。オープンキャンパスのハイシーズンでもあり、今年も2つのオープンキャンパスが近接してあった。ひとつでは模擬講義を引き受けてしまった。今年の模擬講義はこのホームページのエッセイで書いた話を取り上げることにしている。この時は「街・アート・世界 ―小布施、倉敷、そして四日市―」。もうひとつのオープンキャンパスは留学生向け。留学生支援委員会委員長の短い挨拶を頼まれた。短い、というのは意外に曲者で、それなりの準備が必要になる。今年は、さらに、あいちトリエンナーレが8月1日に開幕した。オープニングに行くつもりでいたのだけれど、模擬講義の準備が間に合わず、結局、断念。

前期試験はどの科目もレポート課題にしている。おかげで読む量はかなりになる。使用言語は日本語または英語。どの科目も留学生が多い。レポートを読んでいると、しばしば授業風景が蘇る。特に、今年の1年生の入門演習のレポートでは、それが鮮烈だった。毎年、留学生クラスを担当しており、今年は6カ国からの留学生が集まった。最後の数回では、自分の意見をまとめ、その発表を練習する。賛否が分かれるテーマを設定することが多く、年齢が比較的高く積極的でもある留学生諸君の発表は、途中から激しい議論になることも少なくない。今年のテーマは「落米のおそれあり」。

「落米のおそれあり」は岡本光博によるグラフィティ・アートで、2017年に沖縄県うるま市で開催された「イチハナリ・アート・プロジェクト」に向けて作成された。街なかのシャッターに描かれていた。「落石のおそれあり」という道路標識をもじった名称に、米軍機の墜落事故、米軍の駐留、さらには沖縄戦までをも想起させるようなグラフィティが組み合わされている。「展覧会に相応しくない」と言う意見を受けた市の判断により、展示中止とされた。入門演習では、この作品の展示の是非を各自の立場から論じ、発表し、それをレポートにまとめてもらった。

そんなレポートの採点と模擬講義の準備とで大童だった8月3日、「落米のおそれあり」が、ほんの一瞬だけ、それもほんの少しだけテレビ画面に登場した。あいちトリエンナーレでの企画展「表現の不自由店・その後」の展示が8月3日限りで中止になることを報じたニュースの時だ。話題の焦点は旧日本軍の慰安婦を象徴したとされる「平和の少女像」。同じ企画展のなかに「落米のおそれあり」が展示されていた。

レポートを読み返しながら、白熱した議論のひとつを思い出した。要約するとこうなる。「何が起きたかを記憶しておくことは確かに大切だが、それ以上に大事なのはこれから先どうしていくのかを考えることだ。『落米のおそれあり』の展示は、そうした未来を考える機会になるのではないか」。理想論には違いない。実際、「落米のおそれあり」の場合も、今回も、色々な現実的事情があるのも承知してはいる。ただ、今回の出来事の続報を見るたびに思い出されるのは、このレポートの主張と、その発表の時の留学生たちの真剣な表情である。議論の風景も蘇ってくる。繰り返し、鮮烈に。(A.T.)

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