展評 「不思議の国のアリス展」

  • 2019/8/17

実家にいちばん近い松代ICまで行かず、松本ICで高速道路を下りると、そこから安曇野にかけて美術館が幾つも並んでいる。日本浮世絵美術館、松本市立美術館、碌山記念館、高橋節夫記念館、ちひろ美術館などなど。帰省途中にしばしば寄り道をするところだ。今回は松本市立美術館に立ち寄った。松本出身の草間弥生の作品を常設展示していることでも知られる美術館だ。

「不思議の国のアリス展」、松本市立美術館。ルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』(以下「アリス」)の最初の本はキャロル自身が描いた挿絵のある手書きのものだったという。その後、『パンチ』紙の挿絵家ジョン・テニエルが挿絵を入れて印刷出版された。この展覧会では、そうした「アリス」の始まりから、この物語にインスパイアされたコンテンポラリー・アーティストの作品まで、「アリス」の挿絵にとどまらず、さまざまな形で表現された「アリス」が展示されている。

作品を見進めるうちに、「アリス」の喚起力はどこか聖書や神話に似ていると思った。ただ、聖書や神話にはもともとイコンは同伴していなかった。物語と言っても、文字で伝えられるようになる以前は、語りによって伝えられていたことが想像できる。「アリス」の場合は、確かにもとをたどるとキャロルが学生時代に子どもたちに語った物語にまで辿りけるのかもしれないが、今日に伝わるものは印刷によるもので、「アリス」には初めからイコンが付いていた。絵画などの作品の興を得るという点では、「アリス」は聖書や神話よりも難しいのではなかろうか。僕はそんな作品は作ったこともないのでただの推測ではあるけれど、既存のイコンたちが邪魔になりはしないか。ところが色々あった。「アリス」の喚起力とアーティストの創造力との協働とでも言うのだろうか。

常設展で草間弥生を見た。来るたびに内容が少しずつ変わっている。ただ、毎回、鏡を使った作品に首を傾げる。真っ暗な展示室の中に置かれた2つの作品。下の鏡を覗くと、上の鏡が映って、鏡と鏡の間に置かれた梯子が上下にどこまでも伸びているように見える。高所恐怖症の僕は手に冷や汗を握った。傾げた首がなかなか戻らなかったのは次の作品だ。ハート形の作品の内側の周縁に、ハート状に配置された豆電球(?)が、何層ものハートに反射して、どこまでも奥行きがあるように見える作品。実際には40センチも厚さはない。いったいどうなってるんだ。首を傾げることがもうひとつある。ほぼ毎回。僕が立ち止まって首を傾げる作品の前で立ち止まる人は、ほとんどいない。どうやって自分を納得させているのだろう。あるいは僕が鈍すぎるのか。いったいどうなってるんだ。ちょっとだけアリスの気持ちが分かるような気がした。

いや、待てよ。僕が立ち止まらない作品の前で首を傾げている人もいる。ひょっとすると「アリス」の喚起力はこれかも知れない。読む人によって気になる所、場面に限らず、がかなり違っていて、 気になりだしたら止まらなくなる。だから、既存のイコンは必ずしも邪魔にはならない。(A.T.)

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